COSINA × 小布施短編映画祭

記念すべき第一回の開催に向けて動き出した小布施短編映画祭。

この取り組みに協働パートナーとして参画いただくのは、小布施のお隣にある中野市に本社をもつ、レンズメーカーの株式会社コシナ。「フォクトレンダー」や「カールツァイス」など、世界中で愛される高性能のカメラレンズを製造する、実はとてもすごい地元企業です。

どうして世界的なレンズメーカーが、この地域に拠点を置いているのか。そして、なぜ小布施短編映画祭のような新しい取り組みに参画していただけることになったのか。今回その背景について、コシナ広報室の佐藤和広さんに詳しいお話を伺いました。

COSINA × 小布施短編映画祭

専属の広報室で、企業としての新しい情報発信を

ー本日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。

佐藤さん

こちらこそ、よろしくお願いします。

ー早速ですが、まずは佐藤さんが所属されている広報室の仕事について教えていただけますか。

佐藤さん

はい。私は現在本社の広報室に所属していますが、もともとはレンズの機構設計を担当していました。当社は今年で創業59年を迎えますが、そもそも長らく広報を専属で扱う部署は置かず、製品の広報は設計部門が行い、会社全体については総務部が担当してきました。

しかし、情報発信の方法論が急激に変化する中で、積極的に世の中に発信していくことの必要性や課題を感じ、2年前に専属の広報室が立ち上がり、私がその役割を担うことになった、というのが経緯になります。

ーまだ始まったばかりの部署なんですね。

佐藤さん

専任の部署になったので、これまでとは違う形で、積極的に当社について発信していきたいという思いがあります。メーカーにはよくあることかもしれませんが、これまでは「いいものを作れば、自然と売れる」という意識がどこかにあった。そうではなく、もっと私たちのほうから地域の方々や、製品を購入してくださる方々にアプローチして、コシナのものづくりについて知ってもらうことが大切だと思っています。

COSINA × 小布施短編映画祭

ーそういう中で、2017年には私たちが住む小布施町が取り組む新しいプロジェクトにも関わっていただきました。

佐藤さん

そうですね。2017年1月に小布施町さん主催で開催された「Next Filmmakers Summit」には、私たちもスポンサーとして参画させていただきました。一眼カメラで映像が撮影でき、Youtubeなどで気軽に個人が発信できる今だからこそ誕生した、新しい時代の映像クリエーターのみなさんとも数多く出会うことができ、濃密な意見交換をさせていただきました。

最高品質を生み出す技術力と、「中小企業としての誇り」

ー実は私も、サミットをきっかけにコシナさんのものづくりの凄さを知ることになったのですが、そもそもコシナさんは、どのようなこだわりを持ってものづくりをされているのでしょうか。

佐藤さん

弊社の企業理念には、「コシナは最高品質の光学製品を通じて真の価値を創造し、偉大なる中小企業を目指します」とあります。ここには2つの意味があると思っています。

一つは、私たちの強みは、その技術力にあるということ。最高品質の光学製品をつくることができる技術力は、今の私たちになくてはならないものです。
もう一つは、「中小企業」であることへのこだわりです。一般的には大きく成長していくことを目指す企業が多いと思いますが、私たちはそうではありません。社会の変化が激しい今の世の中で、社員一人ひとりの声が届きやすく、変化にも対応しやすい適正な規模を保つこと。むやみに規模を大きくするのではなく、小回りがきき、それでいてキラリと光る技術を持っている中小企業であることに、私たちは誇りを持っています。

COSINA × 小布施短編映画祭

ーそのような企業理念は、コシナが変わらず大切にしてきたことなのでしょうか?

佐藤さん

実はコシナも、20年ほど前までは全く違う企業風土や生産体制を持っていました。大量生産に対応できるように社員も今の倍以上。ベルトコンベア式の工場で1日の生産台数は数千台規模。その頃は、今のような「少量でもこだわりのある製品づくり」ではなく、実用上問題にならない機能を持ち、価格帯としても比較的安価に手に入るカメラをつくっていました。レンズも現在のようにマニュアルにこだわるのではなく、オートフォーカスもやっていましたし、プラスチック製の製品もつくっていました。
もちろん時代の流れでもあったと思いましたが、その背景には創業者である先代の社長の想いもあります。当社がカメラづくりをはじめた1970年代というのは、カメラはまだまだ高価で、誰もがカメラを持つことができない時代でした。だからこそ「多くの人に写真文化を届けたい」という想いで、価格的にも手に取りやすい商品をつくってきたわけです。

しかし、1980年代には写ルンですなどの「レンズ付きフィルム」が登場して爆発的に流行し、誰もがカメラを持てる時代になりました。それはコシナが目指していたことでもあったわけです。そういう時代の変化の中で、当社のターゲットも「より多くの人」から「より趣味性の高い人」へ変化し、ものづくりに対する想いも「より深い写真文化の楽しみを追求したい」という方向性に変わっていきました。

それ以外にも、他のメーカーの生産拠点が賃金の安い海外にどんどんシフトしていく中で、大量生産・大量消費型の製品づくりでは大きなメーカーに勝負できないという現実的な事情もありました。そこで現社長のもと、価格競争に陥らないような、当社の技術力を結集した高性能で付加価値の高い、こだわりのある製品を「多品種少量」で生産していく路線に舵を切ったわけです。

転機となった「フォクトレンダー」との出会い

ー 20年前から方向性が変わってきた、ということでしたが、具体的にはどのような出来事があったのでしょうか?

佐藤さん

そうですね、実際に方向性の変化を具体的に実現できたのは、1999年の「フォクトレンダー」の生産開始がきっかけだったと思います。

フォクトレンダーは約260年の歴史があるドイツのカメラメーカーで、「世界一古いカメラメーカー」とも言われています。カメラマニアの間では知られた存在ですが、一般的には知名度は高くないかもしれないですね。

ご縁があり、このフォクトレンダーの生産がはじまったのですが、フォクトレンダーという質の高い製品づくりを進めていく中で、2004年には、同じドイツのカメラメーカーである「カールツァイス」との技術協業にもつながりました。

カールツァイスも、世界水準のレンズやカメラをつくるメーカー。この会社から声をかけられたということは、私たちの技術力が海外の一流メーカーに認められた一つの証明にもなりました。

その一方で、これまで自社ブランドで生産していたコシナブランド製品についてはこの時期に生産を終了しています。こうして、現在のコシナが大切にしているあり方や価値観である「こだわりのある製品づくり」が実現していったわけです。

COSINA × 小布施短編映画祭

「コシナ」という社名に込められた、地元へのこだわり

ー これまでのコシナがたどってきた歴史が、とてもよくわかりました。それでも気になったのは、20年前にどうしてこのような方向性に舵を切れたのか、ということです。他のレンズメーカーと同じように生産を海外に移すという選択肢はなかったのでしょうか?

佐藤さん

当社は、ここ中野市で生まれた会社で、中野を含めた北信地域で一貫した生産体制をつくってきました。コシナという社名も、創業の地である中野市越(コシ)という地名と、中野の頭文字(ナ)を組み合わせたもので、この地域への思い入れは人一倍強い会社だと思います。

北信地域にこだわる理由は他にもあります。59年前にレンズ研磨からスタートしたコシナですが、県内で精密機械が盛んな中信地域(松本・諏訪など)から地理的に遠く、他企業との連携が難しい状況にありました。

また「自分たちで値段をつけられるものを作っていきたい」という思いを強く持っていたことから、機械加工、ガラス溶解と徐々に技術領域を拡大し、北信地域に自社工場だけで一貫したものづくりができる体制をつくっていきました。

その結果、創業10年後には、COSINAの名前で初めて自社ブランドのカメラが誕生しています。北信地域での一貫した生産体制が出来上がった背景には、このような経緯もあります。

COSINA × 小布施短編映画祭

ー 一貫体制が強みであり、だからこそこの地域に根付いた企業経営をしていきたい、ということでしょうか?

佐藤さん

そうですね。創業者の出身地もこの地域ですし、現在でも9割近い社員がこの地域の出身者・在住者です。地元の方々に支えられて技術を磨き今のコシナがある。だからこそ、生産拠点はこの地域に残すことは、会社としての一つの使命でもあると思っています。

一貫体制をもち、小回りのきく体制だからこそ、時代の変化にもすぐに対応できる。その価値を、私たちとしては大切にし続けていきたいです。

手作り感とクオリティを大切にする、小布施のまちづくりへの共感

ー 素晴らしい理念や価値観ですね。私たちが住む小布施という町も、どこかコシナさんと共通する価値観があるように思います。

佐藤さん

そうですよね。これは個人的な意見になってしまいますが、小布施は何か特別な力がある土地だと感じています。美しい町並みもそうですが、行政や企業の一つ一つの取り組みのクオリティが高い。それに「自分たちの力で作っていくんだ」という、いい意味での手作り感や気概がある。アイデアを結びつけて実現していく力、誰かの思いを支える力も強いように見えます。

当社も先ほどお話ししたNext Filmmakers Summitをはじめ、小布施のみなさんが仕掛ける事業に関わらせていただく中で、その姿勢に多くのことを学ばせていただいています。

実は、「ないものは自分たちで作ってしまおう」と感覚は、私たちコシナの中にある文化とも共通点があるように感じます。誰から教えられたというわけではないですが、当社には、「なければ自分たちでやればいい。やりたければ自分たちで」という企業文化が根付いている。それに小布施も人口1万1000人で小回りの利く適正規模というところも、どこか共通点がある。だからこそ小布施の取り組みには共感するし、応援したくなるのだと思います。

コシナのものづくりを、多くの人に知っていただきたい

ー そうおっしゃっていただけるととても嬉しいです。そのような中で、協働パートナーとして今回の小布施短編映画祭に参画いただきますが、コシナさんとして映画祭に期待していることがあれば教えてください。

佐藤さん

先ほど申し上げた通り、まずはこういった手作りの取り組みに一緒に関わらせていただくことで、私たち自身が学びたいということが第一にあります。実行委員会やプレイベント、当日のイベントなど、積極的に社員が関わらせていただく中で、いろいろな交流が生まれ、私たちのものづくりや情報発信のあり方にもいい影響があれば、と思っています。

それから、最初のほうにもお話しましたが、今は「良いものを作っていれば認められる」という時代ではもちろんありません。地元出身の社員が多いのにも関わらず、当社のものづくりについてご存知でない方も多いはずです。ぜひ、今回の映画祭をきっかけに、コシナが大切にしている価値観やものづくりへの想いに触れていただきたいですし、実際に製品を手にとって、使ってみてもらいたいと思っています。

佐藤 和広(さとう・かずひろ)

株式会社コシナ広報室 係長

長野市出身。1996年株式会社コシナに入社。主にMマウントレンズ関係の機構設計を行いながら技術広報として活動していたが、2016年11月、広報室新設の際に広報室に移動となり、引き続き技術広報および会社広報として活動している。技術的側面およびメディアなどの多方面のコネクションを活かし、新製品の企画なども担当している。